「PUNK POST WAVE」というタイトルについて

 

“PUNK”は、パンク・ロック。“POST”は「後に」。“WAVE”はニュー・ウェーヴ。

 

おれは元々パンクが嫌いで(特に日本の。今は好き。)、それに対するパンクの精神を持って音楽をやろうと思っていたんだけど、もうすでに「ポスト・パンク」っていうジャンルが確立されててね。すごく悔しかったけど、同時にどっぷり浸かったんだ。じゃあ「ポスト・ポスト・パンク」をやろう!と思ったら、今度は「ポスト・パンク / ニュー・ウェーヴ リバイバル」っていうムーブメントが10年ぐらいまえには起きててね。

 

ああもういいや、ジャンルとか。って思ってただただ好きな音楽を聴いていたら、「ニュー・ウェーヴ」に辿り着いて。

 

それが4年ぐらい前の話。んで、そのニュー・ウェーヴへの感謝の気持ちを作品にしてみようと思ったんだ。でも逆に捉えるとニュー・ウェーヴへの挑戦状になるわけだから、すごく勇気のいることだった。

 

そういう感じでアルバムを作ってるうちに「PUNK」「POST」「WAVE」という3つの単語が浮かんだんだ。それを3つ並べて、文法的な意味合いは正しくないだろうけど、「ニュー・ウェーヴのあとのパンク」という意味をつけた。

 

だから、この作品は誰がなんと言おうと「ニュー・ウェーヴ」だと言い張るし、「パンク」でもある。

 

(ジャンルなんて、言ったもん勝ちだぜ!そしてジャンルに意味なんてあんまりないんだぜ!)

 

では全曲解説始まります!

(曲名をクリックすると曲が聴けるよ)

 

 

01.「パンク・ポスト・ウェーヴ」

インスト。まあおれの声入ってるんだけど、「おれ」という楽器の音ってわけで。実際、歌詞ないしね。

元々は「ロンドン橋落ちた」という童謡の曲のコード進行をサンプリングしたインストにしようかと思ってたんだけど、いろいろいじくってるうちに今の形に。ちなみに「ロンドン橋落ちた」の面影も跡形も全くない。

 

02.「パブリック・ミュージック」

おれがパッとイメージするパンク・ニュー・ウェーブがこういう曲なのと、PILの「Public Image」という曲を聴いたときの衝撃が未だに忘れられなくて付けたタイトル。これはね、ジョン・ライドンへのサンキューソング。

前半部分はコード進行がない。無理くりコードつけてみたって、それは不正解。だって元々ないんだもの。

 

03.「イエロー・ミュージック」

バンドをやってたときにやってた曲。セルフカバーだね。

「ブラック・ミュージック」という言葉があるよね。それに対してXTCは「White Music」という作品を作り上げた。じゃあおれはイエローミュージックだ!ってわけで、このタイトル。日本人の特技といえば、昔から「パクる」こと。そう、この曲は収録曲の中で最も引用の多い曲なんだ。歌詞とリフとメロディ、そしてギターやスネアにかかっているゲートエコーから、どこから引用したかすぐわかるはず!わからない人はいつかそれに出会ったとき、ガッツポーズをするはず。

 

04.「融けた魔法」

最初の3曲に比べると、かなりピコピコ系のサウンド。いわゆる「シンセポップ系ニューウェーヴ」というやつだ。

架空のお話なんだけど、この類の魔法は「解ける」より「融ける」だなーと思う。

 

05.「フレッドは井戸の中」

なんとも奇妙な曲である。系統としては「融けた魔法」と同じだけど、こっちのがエキゾチック感とあやしさが強い。先に「ギャルソン」という曲ができてたから仮タイトルを「フレッドペリー」にしてたんだけど、「井の中の蛙」とかだとパッとしないから合体させてしまったのだ。なので一応主人公の名前はフレッド。

 

06.「なぽれげ」

パリプロ食べ物シリーズ第2弾。ナポリタンが大好きでね。歌詞通り毎日食っても好きだったから、嘘じゃないよ。歌詞のおふざけ感とは裏腹に、サウンドは切ない。ちなみに、コーラスはtiny tinyの森ぞのさん。サンキューでした。

 

07.「ついでにフットボール < New Wave Ver. >」

3年ぐらい前に出した「パリとプロヴァンス」というデモCDに収録の曲を再録。雰囲気も結構違う。もしバンドやるなら、こういう曲がやりたいね。踊れる4つ打ちのキックとチキチキハイハット、フェイザーとかフランジャーをかけたカッティングギター、リフっぽいベース、実はいい仕事するキーボードみたいな。そういうのをイメージしてアレンジした。

 

08.「ギャルソン」

「フレッド」に負けず劣らずヘンテコな曲。裏声+低音ボイスのコーラスは我ながらかなり耳に残る。打ち込みだけど、頑張ってグルーヴを作ろうと思った曲。

 

09.「ぶりぶり」

歌詞は、常日頃からおれが感じていること。サウンドは70年代っぽさがあって、いい感じのダサさだと思う。クラビとワウの絡みがたまらない。

 

10.「ぼくの部屋に口を出すな」

80年代にこういうアホっぽいパンクみたいなロックみたいなパワー・ポップみたいなやつが流行ったでしょ?それを意識。でもこういうアホっぽいのやっぱ好きなんだよなあ。聴くのもやるのも。50歳ぐらいになってもこの曲をステージで飛び跳ねながらやるのがおれの目標。

 

11.「葡萄園の棘を往く」

バンド時代のリメイク。アレンジは全く別。こういうスローな曲は中々作れなくて、やっと作れたよ。スローだとさ、ドラムのダイナミクスとか、ごまかしきかないじゃんか。一音一音を一生懸命打ち込んだよ。

 

12.「厚すぎた情熱」

先行シングル的に発表してた曲の再録。ボーカルは録り直して、ミックスは結構変えた。

初めて女性目線の歌詞を書いたけど、なんつーか所詮「女っぽい男っぽい女」だな。やはり女心というのはおれごときにはわからない。難しい。女性って不思議だ。

 

13.「ハッピーまたはブルーなマンデー」

仮タイトルをそのまま採用。普通こういうポップとはかけ離れた実験的なのを作ると、大抵の人は6分とか7分ぐらいのわけわかんない曲にしちゃうけど、おれは3分30秒以内にきっちり収めた。この収録時間はポップスの黄金タイムなので非常に満足している。ま、あんなの4分以上聴いてたって仕方ないからね。当然と言えば当然。

 

14.「ニュー・ウェーヴ・イズ・オールド」

当時は「“ニュー”・ウェーヴ」と呼ばれてチヤホヤされてたけど、今じゃダサいの代名詞になりつつあるニュー・ウェーヴ(特にシンセポップ系)。でもダサい=古いはまた別の話。(今っぽくないとかで音楽を判断するやつは、大抵仲良くなれない。)

サウンドは80年代当時の最新をイメージ。歌詞はそれを嘆くというか、まあこれは世の中のいろんなことに当てはまることかもね。新しいものを世の中は求め過ぎだよ。古いものを知らないと新しいものがわからないのに、古いものを知らない人が多すぎる。そしてそういうやつに限って新しいものに飛びついて、飽きたらすぐポイだぜ。いつか痛い目に遭え!そしてくたばれ!クソやろう!!

 

15.「MUSIC」

またしても自分VS音楽をテーマに曲を作ってしまった。「ロードムービー」「音楽なんてなくなればいいのに」「誘惑」と、アルバム作るたびにひとつずつ増えてく。これはおれの永遠のテーマなんだな、きっと。

この曲はとにかく聴いてほしい。長いけど、ちゃんと全部最後まで。それだけさ。

 

 

ちなみにこの作品、フリッパーズ・ギターも顔負けの引用のオンパレード。元ネタに気付いたら教えてね。そして多分、元ネタを全て挙げることはできない。「あの曲からの引用かと思いきや、実はこの曲とこの曲も…」っていうトラップが、結構あったりするんだ。

 

この「引用」が「パクリ」なのか「オマージュ」なのか「リスペクト」なのか、それともただの「元ネタクイズ」なのか、それは聴いた人の判断に任せるよ。

 

今の時代は、テレビとかメディアの影響で音楽を好きになるってことが少ない時代。つまり、好きになる音楽を自分で決めることができるんだ。You Tubeとかでね。だから、聴き方も自分で決めるんだ。音質にこだわるのか、今までにない全く新しい音楽を求めるのか、ただの娯楽なのか…。

 

おれはね、そういうことを歌詞じゃなくて解説に書いちゃう。でも思いは込めたんだ。サウンドに表れてればいいな。

 

話はちょっと変わるんだけど、

 

おれが高校生の頃に度肝を抜かれたスパルタローカルズというバンドの「セコンドファンファーレ」というアルバムの帯にこんなことが書いてある。

 

以前テレビジョンというバンドを聴いて一人で盛り上がってる時ふと『自分達が作った音楽を何十年か後に日本の冴えない若者が聴くなんて想像してなかっただろうな』と思った事がある。

このCDを三十、四十年後にどっかの冴えない若者が聴いてくれたら最高だ。本当に。

安部コウセイ

 

僕は三十、四十年後の若者ではなかったけど、8年前、17歳のときに「セコンドファンファーレ」を聴いて一人で盛り上がっていたし、後々テレヴィジョンを聴いて一人で盛り上がった。

 

もしも、冴えない若者が「PUNK POST WAVE」を聴いて盛り上がることができたら、スパルタローカルズもテレヴィジョンも聴いて盛り上がって欲しい。そういう意味で、この作品はテレヴィジョンからスパルタローカルズ、そしてパリとプロヴァンスへ渡されたバトンなのだ。きっと、テレヴィジョンだって誰かにバトンを渡されたに違いない。そうやって音楽を後世に残していきたい。

 

 

この作品が、誰かの何かになったら、しあわせ。読んでくれて、ありがとう。きっと聴いてくれてもいるはず。本当にどうもありがとう。